〜第一章 アソビの始まり プロローグ〜
学校近くの山奥にある誰が住んでいるかも分からない洋風の屋敷。
肝試しと称して屋敷へやって来た高校生男女〜人。
屋内に入って暫くすると、全員のスマホに一通のメールが届く。
そこにはとある『アソビ』のルールが記載されていた。
【ルール】
①このアソビは1ゲーム60分で行う『隠れ鬼』です。
②1ゲームごとに鬼側のプレイヤーがランダムに1人選ばれ、それ以外のプレイヤーは隠れる側として参加してもらいます。
③プレイヤーには最初の10分でこの屋敷のどこかに隠れてもらいます。ただし10分を過ぎても隠れていない者は参加を放棄したものとみなされ、その場で◯にます。
④自ら見つかろうとする、大きな音を出す等の行為を行った者はペナルティとしてその場で◯にます。
⑤隠れている者同士は連絡を取り合う事が出来ますが、居場所を鬼役の人間に伝える等の不正を行った者にはペナルティを与えます。
⑥1ゲーム毎に鬼に見つかった人間の中から1人自動的に◯にます。
誰も見つからなかった場合は鬼側の人間も含め、全員の中から、◯ぬ人間を1人ランダムに選定します。
〜注意〜
最後の一名になるまでこのゲームは続きます。
〜第一章 第一話「山奥の屋敷」〜
キーンコーンカーンコーン……
一日の終わりを告げるチャイムと下校を促す教師の声。
8月の初頭、明日から夏休みに入るという事もあり、生徒達は思い思いに歓喜の声をあげながら帰り支度をしている。
そんな中、席に座り直しボーッと窓の外を眺める生徒が一人。
その少年の名前は影凪涼。
ボサボサに伸びた前髪、地味な眼鏡、特徴のない顔。
陰キャじみた空気を纏った少年はクラスメートの笑い声やグラウンドからの部活動の声にウンザリしていた。
(毎日こんな事の繰り返し……夏休みに入るってだけで何舞い上がってんだよ……面白い事が起きる訳でもないのに……)
そんな事を考えていると隣の席の旧友、才川集が上機嫌に話しかけてきた。
「うぇーい!一緒に帰ろーぜ涼!」
「うん。どうしたの?何かテンション高いね」
「ふっふっふっ。実はな……この前裏の山奥で面白えもん見つけたんだよ!」
「へえ。何見つけたの?」
「聞くだけ無駄だって涼!どうせエロ本が落ちてたとかそんなところでしょ!」
「ちげえよっ!!……って何だ共架か」
突如話に割り込んできたのは同じく幼馴染みの氷川恭架。
しかし集や恭架と違って涼は小学4年生の頃に転校生して来た為、幼馴染み歴は二人の方が少し長い。
中学、高校は三人同じ所へ進み、現在もこうして一緒に遊んでいる。
「んだよ!話の邪魔すんなっつの!」
「いーじゃん別に!で?何話してんの??」
「ふんっ!別に何でもねーよ!」
「えーっ!教えてくれたっていいじゃんケチ!ねえ涼!こいつ何話してたの?大方女子には言えないようなゲスい話でもしてたんでしょ!」
「だから違えよ!お前の中で俺はどんだけ低いんだ!?」
「じゃあ何の話??白状しなってホラホラ!」
「ちょっ……!分かったから顔近づけんな!!……はぁ、、、この前近くの山の中散歩してたら滅茶苦茶でけえ屋敷を見つけたからよ、そこに涼と一緒に行こうとしてたんだよ」
「屋敷!?いいじゃんっ!私も行きたいー!!」
「はぁっ!?……つーかお前今日補修があったんじゃなかったのかよ?」
「そんなのまた今度でいーって!先生も明日でいいって言ってたし!」
「何バカな事言ってんの」
そう言って恭架の頭を小突きながら現れたのは恭架の姉の氷川恭子。←奏咲慧
長くて綺麗な黒髪に端整な顔立ち、清純で大人びた雰囲気、おまけに成績優秀な完璧超人。
共架の家に遊びに行く度にいつも涼達のお世話をしてくれた優しい人で、四人で遊んだ事もあった。
「あっ、お姉ちゃん!迎えに来てくれたの!?」
「違うわよ。あんたが今日放課後補修だから勉強教えてって言ってきたんじゃない」
「あー、そーいえばそーだった!ごめんお姉ちゃん!やっぱその話無しで!この後集達と屋敷に行ってくるから!」
「屋敷?そんな建物近くにあったかしら……?」
何の話をしているのか疑問な様子で恭子さんが僕と集の方に視線を向けてくる。
するとそれに気付いた集が漸く喋り出した。
「え、えっとですね!この前僕が近くの山を散歩してたら偶然見つけたんすよ!良ければ恭子さんも一緒に行きませんか?」
「何お上品キャラ演じてんの、気持ち悪ーい!」
「うっせえな!別に普通だっつの!」
いつものようにいがみ合う二人を眺めて苦笑する恭子さん。
普段と変わらない光景を眺めながら、こんな馬鹿な話が出来るだけでも十分幸せなのかなと涼はぼんやりと考えていた。
「うーん、行くのはいいけど……でもそこって誰かが住んでたりするんじゃない?」
「いやー、俺もそう思って屋敷の周りとか中とか軽く覗いてみたんすけど、全く人気もなかったですし、出入りしてる人もいなかったんで大丈夫っすよ!」
「そう……?ならいいけど……でもそこで何をするの?」
「ふっふっふ……ズバリ!!肝試しっす!」
「イヤッッ!!!!」
そこまで集が言いかけた時、恭架が動揺した様子で叫んだ。
「何だよ恭架。いきなり大声出して」
「待って待って!!肝試しって何!?だったら私行かない!!」
「は!?何急に嫌がってんだよ!?」
「嫌に決まってるじゃない!!私怖いのは苦手なの!だから絶対に嫌!!」
「そっかぁ〜。それなら恭架は一人でお留守番だね〜」
「えっ!?ちょっと待ってよ!お姉ちゃんは行くつもりなの!?」
「うん♪まあ最近家と学校ばかりで退屈だったし!いい刺激になるかもしれないじゃん?」
「恭子さん来てくれるんですか!?やったあああ!!!それじゃ俺と涼と恭子さんの三人で行くってことで!あ〜楽しみだなぁ〜〜!!」
「うううっっ…!やっぱり私も行く!!」
「は!?何だよ行くっつったり行かないっつったり…」
「うっさい!!アンタみたいな変態とお姉ちゃんを二人きりにさせたら何するか分からないじゃない!!」
「人のことを性欲の権化みてえな言い方すんなよ!!つーか涼もいるし!」
「とにかく私も行く!!それと他の友達も何人か誘ってくるから!アンタも誰か誘っといてよね!」
「は?別にこのメンバーだけでいいだろ」
「こ、こういうのは大人数の方が盛り上がるでしょ!別に私が怖いとかそういうのじゃないんだから!!」
「わーったよ、ったく……んじゃ今日の夜に学校に一度集まってから行くって感じで!時間はまた俺から連絡するわ!」
こうして僕たちは名も知れない山奥の屋敷へ行く事になったのだった。
これが悪夢の始まりとも知らずに。
〜第一章 第二話「屋敷の中へ」〜
「ねーまだ着かないのー??」
「後少しだって!つーかお前の荷物は俺が持ってるんだからそんなに疲れてねーだろ!」
結局元の四人に加え、クラス委員長の星野恵さん、集と同じバスケ部の上村直人君に川嶋優子さん、そして僕の妹である影凪風香の計8人で屋敷に向かっていた。
現在僕達は主な山道を逸れた、草木の生い茂った小道を歩いている。
「ごめんなさいね集君。私の荷物まで持って貰っちゃって…」
「あっいえ!恭子さんの荷物は軽いので気にしないで下さい!」
「私のはー??」
「超重ぇ。自分で持て」
「酷っ!?今日はそんなに荷物入れてないもん!!」
騒がしい集と恭架を先頭に山奥へと進んでいく。
僕が最後尾で歩いていると、妹が声をかけてきた。
「えへへ!楽しみだね!お兄ちゃん!」
「あ、ああ。そうだな……」
「影凪君、大丈夫…?もしかしてこういうの苦手…?」
「えっ?あー、うん。ちょっとね……」
そう言って話しかけてきたのは、クラス委員長の星野恵。
自分とは真逆のホラー好きで、休み時間や放課後によく怪談話をしてくる怪談マニアだ。
「アハハハ!お兄ちゃんは昔から怖がりだからねー!ホラー映画とかも全然一緒に見てくれないし!」
「はは……風香はホラー系が好きだもんなぁ」
「えへへっ!まーねー♪」
「影凪君って妹さんがいたんだね」
「うん。そういえば星野さんは風香に会うの初めてだっけ」
「影凪風香です!よろしくお願いします!お姉ちゃん!」
「ふふっ。初めまして風香ちゃん。私は星野恵って言います。宜しくね」
そして握手を交わす二人。互いにホラー好きという事もあってか、好きなホラー映画や小説、ゲームの話などで盛り上がっていた。
(やばい……皆楽しそうにしてる。怖がってるのって僕くらいなんじゃ……)
「あの……」
「えっ?あっ、はい」
突如話しかけてきたのは、集と同じ部活(バスケ部)の上村直人と川嶋優子。
クラスは同じだが話したことはなく、知ってることといえば、二人が仲良しのカップルだということくらいだった。
「影凪君もこういうの苦手なの?」
「う、うん。まあね……上村君も苦手なの?」
「うん。僕らは集に誘われたから何となく来ただけだし、実は怖いの苦手なんだよね…」
「そうね……幽霊とか出たらどうしよう……」
「うん……でもその時は必ず僕が何とかするよ」
「直人……」
目の前でラブラブっぷりを見せつけられたものの、僕は自分以外にも怖いと感じている人がいると知り、一先ず安心したのだった。
「まあまあそんな怖がらなくてもいいじゃない涼君!」
「うわっ!!」
いつの間にか前にいた筈の恭子さんが背中を叩きながら声をかけて来た。
心臓に悪いからやめてほしいのだが…
「霊なんてオカルトとか迷信に過ぎないんだから!というか涼君ってそういうの信じるタイプじゃなかったでしょ?」
「えっと…まぁそうですね。科学的根拠がある訳でもないですし…」
「いやいや根拠ならあるぜ!俺の勘っていう科学を超越した最高の根拠が!」
聞こえてたのかよ。というかそれ一番信憑性ないんだが…
そんなこんなで下らない話をする事数十分、僕達は屋敷に到着したのだった。
「とうちゃーく!!」
「うっ……何ここ……暗いしジメジメしてるし何か嫌な雰囲気……ねえ、、やっぱり帰ろうよ………」
「大丈夫だって!何も起こりゃしねーよ!ね?恭子さん!」
「うんうん!集君の言う通り!本当怖がりだなぁ〜恭架は!」
「うぅっ……だってぇ………」
「ほら!目の前に入り口もあるみたいだし行ってみようぜ!」
「はぁ……もうお家帰りたい……」
➡️集を始め、陽キャラがどんどん中に入っていく中、大人しめのキャラが、屋敷の開きっぱなしの窓から見えた真っ暗な部屋の中で変な緑色の大きな何かが動くのを見た。
「今何か……変なのがいた気がしたんだけど……」
「え〜?気のせいじゃない?ほら!早く入ろ♪」
「う……うん………」
〜屋敷に入った後〜
そして僕らは早速屋敷の中へ入っていった。
外から見てもかなりの敷地の広さだったが、中もその期待を裏切る事のない広さだった。
「うおおっ!!やっぱ凄え広えええ!!!」
「そうね〜、それにシャンデリアや絵画も飾ってあってとても綺麗だわ〜♪」
「わ〜い!!お屋敷お屋敷〜〜!!」
「凄い……本当に西洋の国の建物みたい………」
やはりホラー好きの四人が真っ先に感嘆の声をあげるのだった。
ホラーが苦手な僕を含めた四人組はワクワクする余裕も無く、入り口付近で固まっていた。
「よしっ!そしたら早速中を探索しようぜ!」
「ええっ!?もう中は見たんだからいいじゃん!帰ろうよー!!」
「何言ってんだよ!まだ来たばっかじゃん!せめてあと少しくらいは探検してからじゃないとここまで来た甲斐がないだろ?」
「うぅっ……!もう本当に少しだけっ!!ほんの少し中を回ったらすぐ帰るからねっ!!?」
「はいはい。分かったよ!……んじゃあ先ず二グループに分かれて探索しようぜ!丁度階段が目の前に二つある事だし!」
「えー!?だったら私お姉ちゃんと一緒のグループがいい!!」
「なっ!俺だって恭子さんと同じグループになりてえっつーの!」
「あの、、私は上村君と同じグループでお願いしたいです……」
(おいおいこれ決まらないだろ……)
「ね、ねえ影凪君……」
「ん?どうかした?委員長?」
「あ、あのね、、もし良かったら私と一緒に……」
委員長が小声で何かを言いかけた時、恭子さんがパンッ!と手を鳴らした。
「じゃあこうしましょう。上村君と川嶋さんは同じグループで、後の人はグーとパーで分かれる!これでどう?」
「えー!お姉ちゃんと離れたくないー!」
「俺も恭子さんと同じグループが……」
「それ以上言うようなら涼君達と組んじゃおうかなー?」
「「うっ……」」
こうして反発する二人を恭子さんが何とか丸め込みグーとパーで分かれた結果、僕、風香、集、委員長のグループと恭子さん、共架、上村さん、川嶋さんのグループに決まった。
「ぐっ……!何て事だ……!俺の計画が………」
「へへーんだ!やっぱりアンタみたいな変態より私の方がお姉ちゃんにはふさわしいって事ね!」
「ぐぐくっ……!そ、それじゃお互いに探索し終えたらここに戻ってくるっつー事でいいな!?大体30分後を目安で!」
「はいはい。さっさと探索して戻って来るわよ」
こうして僕らは二手に分かれて屋敷の中を探索する事になった。
〜集のグループ(主人公視点)〜
「しっかし本当に広えなー」
「本当にな。空き家とは思えないくらいだ。というか風香、服引っ張るくらいなら手握ってろって」
「う、うん。ありがとうお兄ちゃん…」
「何だかつい最近まで誰かが生活していたみたいに内装も綺麗だよね…」
「ちょっ…怖い事言うなよ委員長…」
屋敷の中を探索し始めてから十数分、現在僕らは三階を探索している。
どうやらこの屋敷は四階まであり、各階層には沢山の部屋があった。
絵や骨董品の置いてある美術室のような部屋からピアノが置いてある音楽部屋、お風呂やトイレのついた個室、何故かタンスやクローゼットばかりが置いてある部屋と様々だった。
「うーん、もう一通り回ったんじゃないか?」
「だなー、そろそろ30分くらい経つし戻るかー」
「そうだね。まだ4階は探索出来てないけど大体見たし、それにあんまり遅くなると共架ちゃん達も心配するだろうし…」
「風香ももう眠いー…お兄ちゃんおんぶー…」
「はいはい…」
「よし、んじゃ戻るかー」
その後、僕は眠ってしまった風香を背中に乗せたまま集達と来た道を戻り、屋敷の入り口の大広間まで戻ってきた。
しかしそこに恭子さん達の姿は無く、近くにいるような気配もないまま辺りは静寂に包まれていた。
「何だよ恭架の奴、『さっさと探索して戻る』なんて言ってたくせにそっちの方が遅いじゃねえか」
「まあまあ。向こうも探索する場所があちこちあって時間がかかってるんだろ多分」
「そうだよね。少し待ってればきっと向こうもすぐ戻って来るよね」
しかしその後暫く待ってみても一向に恭子さん達が帰って来る気配は無かった。
時間が経つ毎に僕らの不安も段々募っていった。
「…いくら何でも遅すぎだろ。もう1時間近く経つぞ?一度戻って先に帰ったとかじゃねえだろーな?」
「いや…そんな痕は見られないし、そうするとしても何かしら連絡するだろうし…」
「まさか…共架ちゃん達に何かあった訳じゃないよね…?」
「そんな事ある訳ないだろ!多分道が分からなくて迷ってるとかそんなんだろきっと!」
気丈に振る舞って笑ってみせる集だったが、表情には焦りが見られた。
委員長も不安そうな顔で僕の服を掴んでいる。
同じく恭架達が不安になった僕は四人が登っていった階段の方を眺めていた。
「そうだ!集、スマホで連絡は取れないか?」
「それがさっきから何回も連絡してるのに全然繋がらねーんだよ…」
「そ、そっか…それじゃあやっぱり探しに行くしかないな…」
こうして僕達は恭子さん達が向かった方の階段を登り、探しに行く事にしたのだった。